駅に着いた。荷物を持ち、列車を出ると、そこにはかわいらしい女の子が、鼻を赤
くして立っていた。
「和喜くん…?杉本 和喜くん?」
俺は、すぐにわかった。彼女が、俺と約束を交わした相手。"大島 千春"だ。
「千春…。」
思わず、言葉が詰まってしまう。
「和兄…。和兄…なの?本当に和兄なの!?」
「ああ、そうだ。帰ってきたよ。約束どおり…」
そして、千春は何も言わずに走ってきて俺に飛びついてきた。コートも着ていなく、
手袋もしていなく、鼻を真っ赤にしていた千春は案の定、とても冷たかった。
「悪い!ずいぶんとかかっちまったな。約束どおり帰ってきたんだ。」
そう言い、千春の細く、冷たい体を抱きしめた。千春は、なみだ目でとても冷たく
なっていた。
「千春、何でコートも何も着ていないんだ?」
千春は、私学の制服であろう特殊な制服だけ着ていて、とても冷たかった。
「だ、だって…その…和兄が帰ってくるのが、学校終わる時間と一緒なんだもん…」
そう言って、頬を赤らめると俯いてしまった。そんな千春がとても懐かしく、そして
愛しく思えた。
「仕方ないな、この中に入れ。」
ひとつのコートに二人で入った。小柄な千春は、俺の肩ぐらいまでしか背がない。千
春は、また頬を赤らめていたが、とてもうれしそうに笑っていた。そして、決心した。今
しかない。
「千春、約束の品だ!」
それは、大学に通いながら寝ないでバイトして、ついに買ってしまった指輪だった。
それを見て、千春はまた頬を赤らめて、そしてなみだ目で、笑顔で抱きついてきた。
「…………」
言葉にならない声を出して、コートの中で涙を流していた。あの頃とは違う、嬉し涙を―。
それは、まだ小さい頃良くある微笑ましい話。千春と俺は近所の幼馴染ってところで
、よく一緒に遊んでいた。そのときに、結婚ごっこをした。そして、千春と結婚を誓い
合ったのだ。しかし、それからしばらくして両親もじいちゃん、ばあちゃんと話をして、
やっと受け入れてもらえ、町に帰ることになってしまった。引越しの日に千春は俺の横
でずっと泣いていた。そして、ついに別れのとき。そこで決心した。
『俺がこいつを守らなくてどうする!』
そして、そこで約束をした。
『また、俺がここに来るから。そしたら、ちゃんとした指輪を買ってきて、結婚ごっ
こじゃなく、きちんと結婚しよう。』
小さい俺が言う言葉とは思えないほどだった。しかし、それを聞いて千春はコクリと
頷き、最後に笑顔を見せてくれた。それから、別れのとき。千春は俺のそばを離れよう
とはしなかった。とても悲しい涙を流しながら―。
そんなことを思い出しながら、大島家に向かった。もちろん、千春をもらいに来た。
そこでは、何もかもを知っている千春の母親がいた。
「和喜くん?大きくなったわねぇ。」
などといわれるのかと思ったが、何も言わずにちょっと悲しい顔をしていた。そして
、家に招き入れられた俺は、千春の父親に千春との結婚について話した。もちろん返事
は、高校卒業してから、様子を見て、とのこと。千春の母親が、なぜ悲しい顔をしてい
たのかわかった。千春の父親が、部屋を出た後、申し訳なさそうに、
「ごめんなさいね。主人は頑固なものですから。」
といった。千春は今すぐじゃないと嫌だ、などと泣きそうな顔をしているが、俺は、
千春の顔を抱き寄せ、
「高校卒業は、大切なことだ。それまで、恋人同士ってのもいいんじゃないか!?」
千春は、少し寂しい顔で頷いた。その後、大島家を後にした。もちろん千春も一緒だ。
そして、俺の住むための近くのアパートへと向かった。さすが千春の父親、契約はもちろ
ん、そこの家賃まで払ってくれている。そこに着くと、千春は荷物の整理を手伝ってくれた。
「悪いな、引越しの手伝いさせちまって。」
「別にいいよ…それより一緒にお買い物に行こう!」
その後、千春と一緒にアパートを出た。
商店街についた頃には、雪が夕日を反射してとてもきれいな時間になっていた。そこで、
千春は夕飯の食材を買っていた。
「これで、今日は和兄においしいもの作ってあげるね♪」
「おおっ!悪いな!」
そういって、千春と俺はアパートに戻ってきた。早速、千春はいつの間に持ってきた
であろうエプロンを着て、夕飯の支度を始めた。
「そういやぁ、お前いつから料理ができるようになったんだ?」
当然の疑問である。なにせ、俺が知っている千春は、ネギひとつ切れない不器用なやつだ。
「もちろん、花嫁修業したからに決まってるでしょ!」
千春は、振り向いてそう言うと、少し頬を赤らめてまた料理に戻った。そんな些細な
ことでも、とても愛しく思えてしまう。もちろん、その日の夕飯は、千春の花嫁修業の
甲斐あって、とてもうまかった。
「あっ、もうこんな時間!そろそろ帰らないと…」
言葉とは裏腹に、千春は全く動こうとせずしょんぼりとしている。
「早く帰らないと、親父さんが心配するぞ。それに、結婚できなくなっちゃうぞ。」
冗談交じりで言ったつもりだったが、千春は無言のまま涙をぽろぽろと流していた。
俺は言うまでもなく躊躇した。
「ちっ…千春!冗談だ!ただの冗談だ!」
「………」
千春は、無言のまま泣いていた。仕方なく、そのまま千春の帰りの支度をして、外へ出た。
外は夜なだけあって、とても冷え込んでいた。しかし、千春は、そのまま動かない。また、泣
き出してしまいそうな顔をしていた。俺は、そんな千春を見ていられずに、千春の肩に手をま
わし、抱き寄せてそっと唇にふれた。外は寒かったが、とても暖かかった。
「かっ…か和兄!!」
頬をこれまでにないって程に真っ赤にして、とても驚いていた。もちろん、二人ともはじめ
てのキスだった。
「それじゃあ、また明日なっ!」
あまりに顔を赤らめている千春を見て、俺まで顔が赤くなるのを感じた。
「おやすみ♪」
という、千春の満面の笑みに見送られ、家に入っていった。その日は、さすがに疲れたので
あろう。布団に入ってすぐに意識を失った。